最近は、金融機関の中には、「老後に1億円必要」というような煽り方をしているところがあるようです。老後にたくさんのお金が必要と不安をあおり、金融機関がすすめるリスク商品を交わせようという腹なのでしょう。
でも、どう考えても、1億円が必要だなんて話はおかしいですよね。これは現役のときにいくら稼ぐか考えてみるとよく分かります。
稼ぎの半分を貯蓄に回す必要がある
例えば、1年で平均500万円稼ぐとします。そして22歳から65歳まで43年間働いたとしましょう。この前提で計算してみると、一生涯で稼ぐお金は2億1500万円ということになります。
ということは、老後に1億円必要だとすれば、現役のときに稼いだ額の約半分を残さないといけないということになります。そして、常識的に考えて、そんなことできるはずがありません。
手取りベースで2,000万円稼ぐ人なら1億円貯めることも可能でしょうけどね。手取りで年収500万円程度の人だと、半分を残すなんて全くリアリティがありませんよね。
年間100万円もためられれば御の字という感じでしょう。特に子供がいる家庭や住宅ローンを払っている家庭だと、それすらも難しい可能性があります。
現役のときの倍のお金を使うのか?
そもそもこの仮定の元では、老後の生活に入ると、現役世代の倍のお金を使うことになります。
大卒だと、65歳で退職するまでに43年あります。そして、65歳から80歳台後半まで生きるとすると、老後の期間は20数年あることになります。
しかし、使うお金のトータルは、現役と老後で同じと言っているわけですよね。ということは、老後は現役世代の2倍のお金を使うという話になってしまいます。
老後生活に入ったら、突然今までの2倍近い消費をするようになるのでしょうか。そんなこと、どう考えてもありませんよね。
このように、老後に1億円というのは、かなりざっくり考えても眉唾な感じしかしないわけです。
まあ、金融機関としては大きめな数字を出したいのでしょう。広告宣伝に使う数字は、大きい方が便利でしょうから。その点は分からなくありません。
少なくとも公的年金を全くもらえなくなることは無い
老後資金に1億円云々という議論には、もう一つ大きな穴があります。公的年金を完全に無視していますよね。
公的な年金制度に関しては、マスコミがボロクソに書いています。ですから、若い世代の中にはそもそも年金をもらえないと思っている人もいるでしょう。
ただ、これは大嘘です。
現在の年金制度だと、将来的に現在の年金の受給額を維持するのは難しいでしょう。ここまでは間違いない事実です。年金制度自体には、確かに大きな問題があります。
だからといって、ほとんどもらえなくなるというのは、いくら何でも大げさすぎるのです。金額が減らされるか、給付を開始する年齢が引き上げられるかはするでしょうけどね。完全にマスコミの作ったイメージに踊らされているといって良さそうです。
ある程度の水準の公的年金の給付があれば、老後のために準備するお金もかなり減るはずです。それを無視して「1億円」とか言われても、まったくリアリティはありません。
それとも、年金込みで1億円と言いたいのでしょうか。
だとしたら、それはそれでずさんな感じがします。現在の年金制度を考えると、いくらもらえるかすら明確ではないからです。
いくらもらえるのか計画が立たないものを元に金額を出されても、それを使って何かを考えることなんてできませんよね。
それに、上にも書いたような理由で、老後に1億円というのは現役の時代よりもかなり生活水準を上げた生活である可能性が大きいです。
計算の仕方によっては1億円にも2億円にもできる
さて、老後の資金に1億円なんてばかばかしいと批判してきましたが、実は、見積もりの方法しだいでは1億円と見積もることも可能です。その気になれば2億円にすることだって不可能ではありません。
今回出てきた1億円という数字は、ダイヤモンドの記事によると、生命保険文化センターの調査をもとに算出しているのだそうです。18~69歳の男女に対して「ゆとりある老後生活費」を聞き、35.4万円という数字を出しています。そして65歳から90歳まで生きると仮定すると、約1億円になるという計算がされているのだそうです。1
老後の暮らしを実際に経験していない人なら、「ゆとりある老後生活費」を聞かれれば、ちょっと大き目の数字を答えますよね。それで出てきた金額が1億円ということなのです。
こんな数字に、リアリティのかけらもありませんよね。アンケート調査を元に数字を出すのなら、実際の高齢者世帯に聞くべきでしょう。
ところが、この数字はまだまだ過小に見積もられていると言う事もできます。この数字を使って2億円必要だと言ってしまうことも可能なのです。
例えば、1年に3パーセントずつ物価が上がっていくと仮定します。そうすると、25年後には物価は約2.1倍になっています。
ということは、物価の変動を考慮すると、現在40歳の人が65歳で引退するときには2億円必要という言い方も出来てしまうのです。
というか、そもそもインフレ率を考慮していない段階で、1億円という見積もりは甘いという言い方すら出来てしまうのです。実際、現政権は、インフレ率を上げることに躍起になっていますからね。
何にしても、この手の数字をいじるのは、ちょっとした算数と経済の知識があれば簡単なのです。ですから、あまり真に受けない方がよろしいかと思います。
そもそも、金額の根拠としている部分からして、ユルユルの前提を使っていますしね。まあ、真に受けるだけ損だと思ってください。
- 「老後資金は1億円必要」説の怪しい根拠
ダイヤモンド・オンライン 2015年12月14日 [↩]
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